第2回 学校での働き方改革とAI活用

〜生成AIの活用が教師の働き方改革につながるのか〜

1.学校での働き方改革とは

学校が抱える課題は、より複雑化・困難化していると言われています。教員の働き方改革はその中でも喫緊の教育課題と言えます。令和4年度の教員勤務実態調査の集計では、全ての職種において在校等時間が減少したものの、依然として長時間勤務の教師が多い状況でした。この結果から、まだ看過できない教師の勤務実態であると言えます。

 これまでにも、学校での働き方改革について、中央教育審議会で議論が行われていて、答申としてその方向性がまとめられています。その中で、教師のこれまでの働き方を見直し、自らの授業を磨くとともに、その人間性や創造性を高め、子供たちに対して効果的な教育活動を行うことができるようにすることを目的としています。

 学校での働き方改革として、校務の情報化が挙げられます。統合型校務支援システムや学校用グループウェアの活用によって、校務の効率化を推進しています。また、学校と保護者等における連絡手段のデジタル化を更に進めていくことが望まれています。学校の働き方改革の事例集では、グループウェアの有効活用が紹介されています。このグループウェアの活用は、既に多くの一般企業ではデフォルトとなっていて、学校現場においても積極的な活用が求められています。教職員の中で連絡を取る際に、チャットや協働編集によって効率的なコミュニケーションを進めることができます。さらに、予定管理をグループウェアで行い、教職員間でスケジュールを共有するなどして、スムーズな連携が可能となります。また、教職員や保護者向けのアンケート調査は、Webアンケートを利用して、回収や集計を効率的に進めることが可能です。

しかし、これらの校務の情報化は、先進的な地域や学校では以前から取り組まれていますし、一定の効果は得られるものの、新しい取組によって抜本的な改革が必要かもしれません。抜本的な改革につなげるためには、新しい視点を取り入れていくことが必要であり、例えば、生成型AIを校務に取り入れていくことが期待されます。

参考:https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_zaimu01-000029160_1.pdf

参考:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hatarakikata/index.htm

参考:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hatarakikata/mext_00008.html

2.校務で生成AIをどう活用できるか

 それでは、教師が校務の中で生成型AIをどのように活用できるでしょうか?例えば、以下の2例は、すぐにでも取りかかれる内容だと思います。

(1)文書の作成支援

保護者や地域など外部への案内文書など、一年を通じて大量の文書を作成するわけですが、前年度までの文書を参考にしながら、生成型AIに作成支援を行わせることで、効率的な文書処理が可能となります。

(2)アンケートの分析支援

 校内の研修や保護者向けに実施するアンケートでは、記述式の回答も設定していきます。その際、記述式のアンケート結果を要約したり、記述からキーワードを抽出したりして、アンケート結果を分析する際に生成型AIに支援させます。

これらの活用例では、生成型AIを活用するにあたって、生成型AIにどのような指示を与えるかが極めて重要となります。それは、教師が生成型AIにどのような問いを与えるのか、教師の課題意識が問われることになると思います。

3.授業で生成AIをどのように活用できるか

 教師が授業の中で生成型AIをどのように活用できるでしょうか?生成型AIが回答した結果を参考にして、教師の授業づくりに関する活用を整理してみます。教師が生成型AIを活用して、教材を開発したり、コンテンツを自動生成したりするなど、教材開発に関係する内容が挙げられます。また、学習課題を吟味したり、単元構成を検討したりするなど、カリキュラムを開発していくことが考えられます。

 学習者からの質問に対応したり、テストを自動採点したりするなどして、学習評価に活用することも挙げられます。大学等では、学生からの質問の時間としてオフィスアワーが設定されていますから、そのような時間で活用することが考えられます。学習者の進捗状況や理解度を分析して、学習状況のモニタリングとして利用することも出てきます。

 さらに、教師の代理として、学習者が生成型AIを利用することも挙げられます。特に、言語教育として利用することは有効かもしれません。

4.「問い」を生み出す教師

 生成型AIを活用していく上で、重要なスキルとして、「プロンプト(指示)」を出すことだと言われています。授業の中で、学習者に対して問いを投げかける「発問」は、教師の指導力の中でも極めて重要な役割を果たすものであり、生成型AIに対して「プロンプト(指示)」を出す行為に近いと思います。

授業では、適切な発問を学習者に投げかけて、学習者に考えさせるわけです。その発問によって、学習者は問いが誘発されて、学習課題を探ってみようと動き始めます。発問では、学習者の問いを誘発する発問が優れた発問とされています。発問1つによって、その後の学習活動が大きく変わってくると言っても過言ではありません。

 これからは、教師が積極的に生成型AIを活用して、発問力を高めていくような自己研修やトレーニングも必要かもしれません。コミュニケーション能力に優れた教師は、生成型AIとうまく付き合いながら、自己決定に役立てていくのだと思います。特に、個別最適な学びや協働的な学びをデザインしていくには、自分の知識だけでなく、多様な手法を用いて考えていくことが必要になっていきます。

5.管理職が活用するとしたら

 学校の管理職である校長や教頭が生成型AIを校務で活用するとしたら、どのような活用方法があるでしょうか?管理職がビジョンや計画を検討したり改善したりする際に、ヒントを得ることが可能になると思います。学校経営では、外部とのやり取り、教職員のコミュニケーション、保護者対応、児童生徒への配慮など、多方面にわたる方策を検討していかなければなりません。それら全てを1人で調べて、細かく設計していくのはたいへんな作業であり、生成型AIによって、学校経営の方向性を効率的に検討して、素早く意志決定を図ることが可能となります。既に、先進的に取り組んでいる校長や教頭は、学校運営の良きアドバイザーとして生成型AIを頻繁に活用して、スピード感を持って学校運営に取り組んでいます。

 重要なことは、第1回で取り上げたダブルループの考え方で校務の見直しを図ることです。現状の校務に合わせて、生成型AIを活用して考えても、抜本的な改革にはつながりません。大前提に立ち返って、そもそもこの仕事が本来必要なのか、不要なものは止めるといったアンラーン(学習棄却)を施した上で、新たな取組をスタートさせていくことが求められます。

自律した学習者を育成することで、学習者にとって学びが自走できるようになり、主体的な学びに深まっていきます。しかし、学習者だけでなく、教師側にも大きなメリットが出てくるのです。それは、学習者が学びを自走できるようになることで、教師がいちいちお膳立てをすることなく、行き過ぎた配慮が少なくなってきて、最終的には、教師の働き方改革にもつながっていくというものです。

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